鋼構造物の溶接継手|上向き溶接を避ける理由と開先溶接を使う場面
この記事の要点
溶接姿勢は下向きが基本です。上向き溶接が可能な構造にする、という記述は誤りです。
引張を直角に受ける継手には、完全溶込み開先溶接を使います。使ってはいけない、と書いてあれば誤りです。
溶接継手は、鋼材どうしを溶かして一体化する接合です。
ボルト接合と違って断面欠損が出ないかわり、施工の条件が品質にそのまま出ます。
姿勢によって溶接の難しさが変わる
溶けた金属は重力で垂れます。下向きなら溶融池が安定して置けますが、上向きは真下から溶けた金属を押し当てる形です。
| 姿勢 | 施工性 |
|---|---|
| 下向き | 溶融池が安定し、品質を出しやすい |
| 上向き | 垂れやすく欠陥が出やすい |
設計で狙うのは「できるだけ下向き溶接ができる構造」であって、上向きではありません。
組立方法と溶接順序を考えるのも、無理な姿勢を減らすためです。
完全溶込み開先溶接は避けるものではない
開先を取って板厚全体を溶かし込む形が、完全溶込み開先溶接です。断面が母材と同じだけつながるので、力を全断面で伝えられます。
衝撃や繰返し応力を受ける継手ほど、この形が求められます。溶接線に直角な方向の引張を受ける継手も同じで、ここで隅肉溶接に逃げると断面が足りません。
設計で押さえる4点
| 着眼 | ねらい |
|---|---|
| 連結部は単純に | 応力の伝達経路を明確にする |
| 溶接の集中と交差を避ける | 必要ならスカラップ(切欠き)を設ける |
| 偏心を避け板厚差を小さく | 余計な曲げと応力集中を出さない |
| 溶接箇所と溶接量は最小限 | 残留応力と変形を減らす |
溶接量を増やすほど強くなるわけではない点が、ボルトとの感覚の違いです。
高力ボルト摩擦接合との対比
高力ボルト摩擦接合は、ボルトで母材と連結板を締め付け、その間の摩擦力で応力を伝えます。ボルト孔の中心から板の縁までの最小縁端距離は、ボルトが強度を出す前に縁端部が破断しないよう決めます。
技術士一次ではこの形で出た
令和7年度 建設部門Ⅲ-7が、溶接継手の設計上の留意点から不適切なものを選ぶ設問でした。正答は「できるだけ上向き溶接が可能な構造とする」という記述で、正しくは下向きです。
令和5年度 建設部門Ⅲ-7は、道路橋における鋼部材の接合部が題材でした。正答は「溶接線に直角な方向に引張力を受ける継手には、完全溶込み開先溶接による溶接継手を用いてはならない」という記述です。
2年とも、正しい選択肢の側に「連結部は単純に」「残留応力に注意」といった同じ考え方が並んでいました。
理解度チェック
なぜ上向き溶接を避けるのか。
溶けた金属が重力で垂れ、溶融池を保持しにくいためです。融合不良や気孔などの欠陥が出やすくなります。
スカラップは何のために設けるか。
溶接線の集中と交差を避けるためです。交差部に熱と拘束が重なると割れが出やすくなります。
溶接量を必要最小限にするのはなぜか。
入熱が増えるほど残留応力と変形が大きくなるためです。強度を上げる目的で溶接量を増やす発想にはなりません。
まとめ
下向き溶接を可能にする構造が正で、上向きは避けます。引張を直角に受ける継手に使うのは完全溶込み開先溶接です。
この2つの向きを覚えておけば、Ⅲ-7の記述はほとんど照らすだけで切れます。
出典
公益社団法人 日本技術士会「令和7年度 技術士第一次試験問題〔専門科目 建設部門〕」4ページ Ⅲ-7
公益社団法人 日本技術士会「令和5年度 技術士第一次試験問題〔専門科目 建設部門〕」5ページ Ⅲ-7
公益社団法人 日本技術士会「技術士第一次試験 試験問題の正答」(令和5年度・令和7年度)
※ 問題文と選択肢は掲載していません。実際の設問は上記の公式PDFで確認できます。
※ この記事の確認日:2026年7月