鋼橋の維持管理|遅れ破壊はF10TやF8Tでは起きない
この記事の要点
遅れ破壊が問題になったのは引張強度が1000N/mm²を超える側です。F10TやF8Tは、その線より下です。
令和5年度と令和7年度のⅢ-9は、同じ誤り記述を位置だけ②から④へ動かして出しています。
遅れ破壊は、高強度鋼に一定の引張負荷を持続的に与えたとき、ある時間が経ってから突然もろく壊れる現象です。
荷重を上げていないのに、時間が経ってから壊れるところが名前の由来です。
強度を上げすぎたボルトで起きた
高力ボルトは強度を上げるほど本数を減らせます。ところが引張強度を上げた高強度のボルトで遅れ破壊が現れ、より強度の高い等級は摩擦接合用として使われなくなりました。
| 引張強度の位置 | 遅れ破壊との関係 |
|---|---|
| おおむね1000N/mm²を超える | 問題になった側 |
| F10T・F8T | その線より下で、起きにくい側 |
「F10TやF8Tなど、引張強度がおおむね1000N/mm²以下の摩擦接合用高力ボルトで発生しやすい」は、強度の向きが逆になっています。
疲労は平均応力の影響も受ける
疲労は、時間的に変動する荷重が繰返し作用してき裂が発生し、進展して破壊につながる現象です。寿命の長短は応力の振幅で決まる部分が大きいものの、平均値の影響を受けないとまでは言えません。
溶接残留応力があると、外力による変動応力が圧縮であっても疲労き裂が発生することがあります。残留応力が引張側に下駄を履かせるので、外から見た応力の符号だけでは判断できません。
き裂はどこから出るか
| 部位 | 理由 |
|---|---|
| 溶接止端 | 形状が急変して応力が集中する |
| 溶接ルート | 溶け込みの境界が欠陥になりやすい |
| 溶接欠陥 | 気孔や融合不良が起点になる |
溶接止端から出るき裂には、グラインダー処理で止端形状をなめらかにする対策が使われます。
橋の端部と板厚方向の割れ
橋の端部は、雨水や土砂の堆積と風通しの悪さで、厳しい腐食環境になりやすいです。ラメラテアは、板厚方向に引張力が作用する部位の溶接部で、板表面と平行に剥離状の割れが生じる溶接欠陥です。
技術士一次ではこの形で出た
令和7年度 建設部門Ⅲ-9は、鋼橋の維持管理から不適切なものを選ぶ設問で、正答は④の遅れ破壊の記述でした。令和5年度 建設部門Ⅲ-9も同じ題材で、正答は②の遅れ破壊の記述です。
2年の選択肢を並べると、橋の端部・遅れ破壊・疲労・溶接補修の4つが一字同じまま残り、1つだけ差し替えられています。令和5年度は耐候性鋼材、令和7年度はラメラテアが入れ替わる位置に置かれていました。
令和6年度は同じ内容がⅢ-7に置かれ、鋼構造物の疲労として出ています。このときの正答は②で、疲労寿命が応力の平均値の影響を受けないとした記述でした。
理解度チェック
遅れ破壊はどちら向きの強度で問題になるか。
引張強度が高いほうです。おおむね1000N/mm²を超える高強度のボルトで現れ、F10TやF8Tはその線より下です。
外力が圧縮なのに疲労き裂が出ることがあるのはなぜか。
溶接残留応力が引張側に加わっているためです。実際に部材が受けている応力は、外力だけでは決まりません。
グラインダー処理は何を狙った対策か。
溶接止端の形状をなめらかにして応力集中を下げることです。止端から出る疲労き裂に対する疲労強度向上法です。
まとめ
遅れ破壊は強度が高い側の問題で、F10TやF8Tを名指しした記述は誤りです。
Ⅲ-9は3年で2回、同じ誤り記述の番号だけを変えて出ています。番号ではなく記述の中身で覚えます。
出典
公益社団法人 日本技術士会「令和7年度 技術士第一次試験問題〔専門科目 建設部門〕」6ページ Ⅲ-9
公益社団法人 日本技術士会「令和6年度 技術士第一次試験問題〔専門科目 建設部門〕」4ページ Ⅲ-7
公益社団法人 日本技術士会「令和5年度 技術士第一次試験問題〔専門科目 建設部門〕」6ページ Ⅲ-9
公益社団法人 日本技術士会「技術士第一次試験 試験問題の正答」(令和5年度・令和6年度・令和7年度)
※ 問題文と選択肢は掲載していません。実際の設問は上記の公式PDFで確認できます。
※ この記事の確認日:2026年7月