現代の構造設計は、終局強度を考慮した設計が当たり前になってきました。部材の塑性を考慮し、地震力をいかにエネルギー吸収できるか、という観点で設計するのです。
では、具体的に「降伏」とは何を意味するのでしょうか。
そりゃあ、降伏強度<外力のときでしょう、となるかもしれません。しかし、実はそう単純ではないのです。3つの考えが主流です。
1.応力度が材料の固有値(鋼やコンクリートの許容降伏応力度)を超えたとき、降伏する。
2.ひずみ度が材料の固有値を超えたとき、降伏する。
3.弾性ひずみエネルギーが材料の許容弾性エネルギーを超えた時、降伏する。
この3つが提案されてきました。
1は僕たちが設計で用いている方法です。許容降伏応力度を応力度が上回っているとき、降伏したと考えているのです。これをトレスカの降伏条件と呼びます。
当時の研究者がトレスカの降伏条件から降伏強度を算出し、実験式との比較を試みてきました。しかし、どうにも数値が合わない場合があったのです。これを補正した式を提案したのが、ミーゼスでした。
ミーゼスは新たな理論式を提案し、これが、先ほどの3番に該当するミーゼスの降伏条件式となります。
さて、ミーゼスの降伏条件式はx(垂直)、y(垂直と直交方向)、xy(せん断方向)の応力度が二乗和された値が、固有値を超えると降伏すると定義されています。
この式で、x、y方向の応力度が0のとき、すなわち、せん断応力度のみが作用しているとき、次式が得られます。
3τ^2=σy^2
これをτについて、逆算してやると降伏強度を√3で除した値が降伏せん断応力度だと、導けます。僕たちが、普段せん断強度を156/1.73=90.1としていた理由が、コレです。
ちなみに、トレスカの降伏条件を用いれば
τ=σy/2
と導けます。両者には13%程度、値の違いがあります。
鋼構造の研究論文を読んでいると、FEM解析結果をミーゼス応力により判断しますが、研究者の間で理解のある方法です。
複雑な応力が作用する接合部など、ミーゼス応力でないと降伏の判断が難しいので注意が必要です。
話が脱線しましたが、降伏条件1つ考えても様々な考えがあることを、頭の片隅にでも覚えておくと良いかもしれませんね。
それでは。