構造設計をしている方なら、架構を見ただけでどこに力が集まりそうか、大体検討が付くものです。原理的には剛性が大きくかかわっていて、剛性の高い部材には力が集まり、剛性が低い部材には力が流れにくい。それを経験的に理解できるようになります。
さて、暖簾に腕押し、柳に風、豆腐に釘、と多くのことわざがあるように、力は柔らかい物体には伝達しにくい特徴があります。
建物も同じで、地震力が作用すると大きな柱や壁(断面性能が大きな部材)に沢山の力が集まるのです。
すると不思議なことが起こります。
例えば、2次元ラーメンを考えてください。柱が5本あるラーメン構造。この真ん中の柱は、他の柱よりも2倍くらい大きいものです。
すると先ほど説明した通り、力は剛性の大きな部材に集まるので、大きな柱は沢山の力を受けます。他の柱は遊んでいる状態になると(あまり力が作用していない)、ある時点で、先に「大きな柱」が壊れてしまいました。
つまり、「大きな柱が弱い」ことを意味します。逆に小さな柱は、大きな柱が壊れた後に壊れるのです。
この弾性理論における受入れにくい現象は、構造設計者の間でも議論がなされていました。その1人が「武藤清」です。武藤先生は、「大きな柱が見かけ上、低い耐力になることは受け入れがたい」、と著書で述べています。
で、これを解決するため考えられた理論が、塑性論を取り入れた応力算定です。つまり大きな柱は弾性理論では沢山の応力をしょい込んで両端に塑性ヒンジが発生します。塑性ヒンジができた段階で、その柱は両端ピンとして応力を再計算します。
最終的にこの両者の応力を足し合わせた応力に対して断面算定します。僕が読んだ本では、この方法もまだまだ問題点が多く、とりあえず現状は「完成されている弾性論できっちり断面算定するしかない」という結論に至っています。
現代でも、その考えは大きく変わっていないのですから驚きです。
塑性論を考慮した連続梁の応力について
例えば、上述した塑性論を考慮した連続梁の応力を紹介しましょう。武藤先生が提案された方法によれば、nスパン連続梁の内端は2倍では大きすぎるとのこと。塑性論を考慮すれば、0.6Moくらいまで低減できるらしいのです。
0.6Mo=0.075wl^2ですから、僕たちが使っている1.2C(1.3C)の応力とは33%程度小さな値です。
もちろんこれは実務レベルで使えるものではありません。現代の設計技術から明らかなように、結局は無駄が多くても完成された弾性論に頼らざるを得ず、塑性論はオマケなのようなもの。
今だって、1次設計で断面がほとんど決まりますからね。まだまだ塑性は奥深いようですね。
それでは。