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構造の歴史を振り返ろう。日本と米国のせん断力係数の違いについて

構造設計

まあ仰々しいタイトルをつけましたが、あまり深堀していないので、気軽に読める記事です。あしからず。

まず、なんでこの記事を書きたくなったのかというと、武藤先生の「RC造の耐震設計」を読んで触発されました。

この本は、今から50年以上前に執筆されたもので、当時の耐震設計法に至った時代背景や米国との違いが細かく明記されていました。

現行の耐震基準に至るまでに、多くの研究成果が盛り込まれてきたわけで、案外昔の基準を知ることは、とても勉強になります。

 

で、当時から地震力の設定は様々な研究が行われていました。今でも、Ai分布が果たして正しいのか?という議論があるように、当時もせん断力分布係数への疑問があったようです。

と、いうのも日本で高層の建物が被害を受けたのは1923年の関東大震災が最初。武藤先生の文章を引用すると、

その体験からえたものは鉄筋コンクリート造、鉄骨造のビルの類では高層のものが低いものよりもはなただしい被害をうけたという強い印象がある。

<中略>

丸の内ビルその他の高層ビルが手痛い被害をうけた。しかもその破壊は1階、2階がひどかった。同じ鉄筋コンクリート造でも2,3階のものはほとんどが無事であったので、これらの総合判断として”高層のものは耐震的に不利である”、”上層より下層で被害が大きい”ことが認められ・・・

<中略>

普通建物では一様に震度0.1以上を採用することが決められたが、高層のものではより大きくとるべきことが研究者の意見にあった。4階を超えるものに対しては震度の割増しとなって法規化されたのである。

と書いてあります。高層ビルに対して、このままの分布形状や震度でいいのか?という疑問があったかもしれません。

ところで、日本は震度法といって、『震度』という今でいうベースシェアーを一律掛けて地震力を算定していました。『一律』というのは、『等分布型』のせん断力分布形だったのです。

 

一方、米国におけるせん断力係数の考え方は、1906年のサンフランシスコ地震が元になっていました。ここからも武藤先生の文章を抜粋します。

これに対して米国における考え方はサンフランシスコ大地震の被害の経験がその基本をなしている。当時すでにサンフランシスコには鉄骨造骨組みにレンガの類の外壁内壁を用いた高層建築が多数あったのであるが、これらの高層の被害は必ずしも低い建物より激しいということがなかったばかりではなく、低い物の方が被害率が高かったのである。

一方また高層建築の建設に対する社会的要望が高かったので、これが実現できないような放棄は容認できないわけである。このような事情からと思うがサンフランシスコをはじめとする都市の、在来の法規では最上階で最も大きい地震力をとり、階を下るにしたがって地震力を小さくしてよいという規定を設けたのである。

米国は、今でいうAi分布みたいな「逆三角形型」のせん断力分布形状でした(Ai分布は台形形状ですが)。

 

で、サンフランシスコの耐震規定が紹介されているんですが、日本がざっくり震度0.1とか、0.2と決めている一方、

C=0.02/T(0.035<C<0.075)

という式をせん断力係数として定めています。Tは計算方向の建物の1次固有周期。この式、()内が重要で、最大でも0.075までしかありません。

さて、米国では逆三角形分布の分布系でした。詳細は割愛しますが、20階建てのCを計算すると0.070となります。日本の震度に比べると非常に小さな値であるといえますね。

 

さて、両者のせん断力の総和を考えます。日本の分布形は等分布型、震度を標準の0.1とします。最上階の重量M2と2階の重量M1がイコールとすれば、2質点系モデルのせん断力の総和は、

Q=0.1×M2+0.1M1=0.1(M1+M2)=0.2M1

です。一方、米国の場合は逆三角系分布で最上階を0.075、2階を0.0375とします。

Q=0.075×M2+0.0375×M1=0.1125M1

であり、両者の比率は

0.2M1/0.1125M1=1.78倍

と、明らかに日本の基準が厳しいことがわかります。しかも日本の場合、4階建て以上は震度を割増ししますから、もっと厳しいのです。

 

改めて、日本の耐震基準は他国より厳しいものだと思いましたね。当時の基準でさえ、2倍に近い地震力で建物を設計してたのですから。

ところで、今のAi分布は、昔の震度法に逆三角系分布を加えた形状みたいですよね。Aiの算定式も、どことなく、サンフランシスコの耐震規定式に似ているし。

次は、Ai分布のルーツでも調べてみようかな。

それでは!

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