椀の上に箸をおくとき、本を積むとき、私たちは、『落ちないように、崩れないように』注意しています。
しかし、それは物理的な根拠に基づいて、『箸をX方向へ〇ミリ、Y方向へ〇ミリ・・・』とは考えていません。
普段の生活では、数ミリの誤差なんてどうでもいいことです。それよりも実現象として、何が起こるのか?
『落ちるのか、落ちないのか』
これを知りたいのです。
そんな生活の中で身近な話題をゆる~く構造目線でみていきましょう。今回は、3本の矢は本当に1人では折れないのか、考えますよー。
三本の矢の話
小学生のころ、父親が僕にこう言いました。
「1本の矢では簡単に折れるが、3本纏めると中々折れない。だから兄弟3人仲良くな。」
僕は意味が分からず、父親に何の話? と聞くと「毛利元就の格言だ」と返ってきました。
うん、と返事をしたのですが、「毛利元就」も「三本の矢の話」も少し時間が経つまで結局理解できなかったのです。
この、「三本の矢の話」はあまりにも有名です。戦国時代の武将 毛利元就は老年を迎え、3人の息子を集めて妙なことをしました。まず1本の矢を取って折って見せます。
その後、続いて矢を3本束ねて折ろうとしますが、これは折ることができなかったのです。
そして元就は、「1本の矢では簡単に折れるが、3本纏めると容易に折れないので、3人共々がよく結束して毛利家を守って欲しい」と告げました。
話のロジックも、パフォーマンスも含めて素晴らしい。さすが、毛利元就。戦国時代を生きた戦略家だけあります。頭は明瞭です。
ですが、ここで疑問が1つ。
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・・
・・・
3本纏めても、頑張ったら折れるのでは無いだろうか?
矢を折るときの、手の使い方と支持条件、外力条件。
戦国時代に使われた和弓の矢は、一般的に三尺二寸。三尺二寸=96.96cmなので、概ね100cmと考えましょう。太さは9~10mm程度。考えやすいよう、10mmとします。
『矢が折れるか、折れないか?』
これは、構造的にいえば、「応力度>許容応力度」の関係に至ったとき、起きる現象です。矢をおるとき、矢の両端をもって曲げようとしますから、これはまさしく曲げ応力を作用させています。
例えば、棒を曲げようとしたとき、自分の手の動きを良く見てみると、両手の小指付け根が支点(抑え)となり、親指が上側へ突き上げる力をかけていました。ゆえに、上側凸となる曲げが作用しています。
手の大きさは、今も昔も大して変わっていないでしょうから、小指と親指で10cmの間隔があります。
矢の断面性能
次に、矢の断面性能を考えます。矢は円形ですから
Zは、
πd^3/32=3.14x10^3/32=98.1mm^3
です。しかし、元就は3本の矢を持って『コレは折れんわ』と言ったのですから、3本分の断面性能を考えます。3本は一体の部材ではありません。ですから、単純に3倍すれば良いので、Zは
3x98.1=294.3mm^3
です。一方、矢の材料は竹を使っていたようです。竹の強度はよく分からないのですが、ウェブ上での論文を信じて、曲げ強度は概ね
100N/m㎡
とします(https://unit.aist.go.jp/tohoku/techpaper/pdf/5290.pdf)。
3本の矢を折るためには、どのくらい力が必要か?
準備は整いました。
まず、矢の両側はピン支点です。支点から両側100mmの位置に、集中荷重Pが作用します。支点の反力はPなので、曲げMは
M=P×100
次にZは、294.3だったので応力度は、
σ=M/Z=100P/294.3
です。
これが、許容応力度100.0を上回れば折れるわけですから、
100P/294.3<100.0
となり、Pを逆算すると、
P=294N(=29kg)です。
確かに、片腕で29Kgのパワーを出すのは結構しんどい。米俵1つが30kgなので、それに近いパワーが無ければ3本の矢は折れそうにありません。
でも・・・思ったより巨大な数字では無いというか・・・。頑張れば可能性ありそうな数字じゃないですか? 多分、プロレスラーや力士の方だったら3本の矢くらい簡単におれるでしょうね。
まとめ
- 3本の矢を折るために必要な力は片腕で約30kg。両腕で60kg必要。
- 3本の矢でも、力士やプロレスラーなら楽勝で折れる。
ということで今回は以上。話のネタにでもしてやってください。
こちら毛利元就の児童書。昔図書館に置いてあったなぁ・・・。