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この世から、構造設計者だけが無くなった世界。

構造設計

事務所で数字を眺めていると、ふと、思うことがあります。この世から、構造設計だけが無くなった世界はどうなんだろう・・・と。構造設計者がいないと困ることがあるのでしょうか。

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例えば、構造設計者がいなくなった世界

構造設計者は誰もいません。建築物を設計するとき、建築家がいるだけです。当然、僕たちがいないので、柱や梁の太さの妥当性を判断できません。建築家が図面を描いて、細すぎる、太すぎる、と色々思考をめぐらせます。

しかし、大きさを変えても今一つパッとしません。そこで建築家は閃きました。『そうか。昔の建物に倣えばいいのだ』と。

参考にした建物は純ラーメン構造。柱の太さは500x500。梁は300x600。今回設計する建物と同形状・同面積・同高さの建物が運よく見つかりました。

ようやく、小さなRC造建物を設計できました。柱や梁の太さ、配筋も、参考図と同じ、中々しっくりきました。構造設計者がいないので、昔に倣えという設計方針で問題なく設計できることも分かりました。

今回、運がよかったのは参考にできる建物があったからです。建築家は、ほっと一息つきました。

 

国家プロジェクトを担当することになった建築家

国家プロジェクトで、未来的な建築物を設計することになりました。要綱には革新的な建築物と書いてあります。これには建築家も頭を抱えます。

色々とスケッチで描いていたイメージはある、しかし、どうやって実現すればいいのだろう?

誰かに相談したいのですが、残念ながら構造設計者がいない世界です。建築家は気晴らしに外へ出かけました。街へ向かう道中、建築家は面白い物を目にします。

それは、蜘蛛の巣です。蜘蛛の巣は、とても細い糸なのに何十倍も重そうな獲物や自分の体を支えている。しかも、とても軽やかじゃないか!

蜘蛛の巣に着想を得た建築家は、これを屋根にしようと思いつきます。つまり、蜘蛛の糸は骨組みで、隙間を薄い膜で閉じてやれば雨は入ってきません。蜘蛛の糸は鋼鉄ケーブルで、隙間は膜材にしました。

ただ、問題は蜘蛛の糸のように、鋼鉄のケーブルに粘着性が無いことです。どうやって、ケーブルを『くっつければ』いいのか分かりません。建築家は、また悩みます。

粘着力を持たせる方法は、どうやら難しそう。建築家は別の手段を探すことに。すると、またまた建築家は閃きました。『くっつける』のではなく、『引っかければ』なんとか為りそうです。

ケーブルの先端を輪っかを作って、引っ掛ければ屋根になります。これで革新的な屋根が完成しそうだ・・・と、建築家は一安心しました。

 

構造設計者がいない世界。その後、地震が起きた。

ある時、巨大地震が日本を襲いました。構造設計者がいない世界なので、建物の部材断面は、過去の建築物を参考に決めてあります。しかし、壊れ方がてんでバラバラ。壊れていない建物もあれば、同じような形でも壊れている建物もある。

この前、小さなRC造を設計した建築家は愕然としました。参考図通りに設計した建物が倒壊していたのです。しかも、参考にした建物は地震に耐えて残っていました。

倒壊の原因は、ある柱に剛性が集中していたことが理由でした。

建物の形、階数や面積が同じでも、壁の取りつき方が違えば、剛性は全く違います。1つの柱に、袖壁がついていて、地震力が集まっていたのです。そのせん断破壊が原因で軸力も保持できず、倒壊。

実は、壊れ方がバラバラだったのは、剛性の影響を全く考えずに部材断面を設定していたからだったのです。

建築家は業界を去ることになりました。

 

国家プロジェクトの建築家 その後

国家プロジェクトを担当した建築家は、その後とても大きな物件を担当するようになりました。業界での地位も鰻上りで、有名建築家と言われるように。

しかし、ある時不運が襲います。蜘蛛の巣の建築物が突然落下した、というのです。大急ぎで現場へ向かうと、無残にも地面に落ちた屋根があります。その日、風も地震ない、一体何があったのか、と近所の人に尋ねます。

すると、『突然落ちた』というのです。

実は、原因はケーブルの軸力から作用するスラストの設計ができていなかったのです。蜘蛛の巣構造は、ケーブルで屋根の自重を軸力で伝達します。この軸力は水平反力として、『引っ掛ける部分』に作用します。が、建築家は屋根だけに囚われて、『引っ掛ける部分』の耐久性を設計できませんでした。

建築家は業界を去ることになりました。

 

構造設計者がいないと世界が成り立たない。建築家はいなくていい。

建築家はいなくても死にはしません。構造設計者がいないと人が死にます。構造設計者が居ない世の中は、ありえないと感じる思考実験でした。

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