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構造設計って、どんな仕事だろう?『本質』を探る。

構造設計

構造設計という仕事をしていますと、街歩きをしていて『あー、コレ無理してるなぁ』とか『危なそうな建物だなぁ』とか、目につきます。日々、業務の中で安全性を確認する業務ですからね。

さて、安全性の確認は大まかに応力と変形で確認しています。応力度が許容応力度に対してOKか、変形が規定値を満足しているかなど。一方、計算した応力や変形が本当に正しいのかどうか、チェックはしていません。

ところで、日本の産業を支えている『車』は、設計を行った後、実際に車を製作して、衝突検査を行って耐久性をチェックします。また、試乗して運転性能を満足するか確認します。

つまり、建築物は『実際に作用する応力』や『本当の安全性』については、現実チェックできていないのです。一回、建物をつくって壊すなんて不経済なことは出来ませんからね。そう考えると、構造設計という仕事は一体何を確認しているのでしょう?

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もし、全く違う応力だったら何が安全を担保しているのか?

実際の建物に作用する応力が、計算値と全く違った場合、何が安全を担保するのでしょうか?計算値と全く違うなんてありえない!と思うかもしれません。が、計算のモデル化や荷重の加力は『建物が組みあがった状態で、一斉にドンと荷重を作用』させています。

一方、実際の建物は、基礎⇒R階まで順次建設を行うので、応力状態は違うように思います。また、設定した積載荷重も偏在するし、固定荷重だって『平米重量』の設定が本当は集中荷重かもしれません。実際の建物に作用する応力状態は、建設後の建物にひずみゲージを取り付けて計測しない限り、誰も分からないのです。

そもそも、地震荷重はざっくりと荷重分布をモデル化しているだけで(Ai分布が代表的)、実際にその荷重が作用するのでしょうか?

ともかく、私たちは実際とはかけ離れた応力や変形を計算して、あーでもないこーでもない、と議論しています。

このように、計算と実際の応力が違う要因は様々あります。では構造設計は、どうやって安全性を確認しているのでしょうか?

やはり、安全率(余裕度)に他なりません。実際に作用する応力が変動しようが、設計でチェックした応力や変形より小さければいいわけですから。『安全率1.5倍を考慮する』ように、『まぁ、こんなもんか』というのが、建築屋さんが安全を担保する方法です。他の工業屋さんからみると、いい加減と思われそうですが、現実そうなのです。

 

とりあえず、過去の建物に倣えばOK。

もう1つ安全を担保する方法があります。それは、過去の建物に倣うこと。例えば1000㎡の保育園なら、過去設計された1000㎡の保育園に倣って断面を大まかに設定すれば、『まぁ、こんなもんか』に外れない建物になるでしょう。

と、いうのも構造設計で設定している地震荷重は数十年、数百年に1度起きるレベルを想定しているので、『起きてみなければ分からない』という性質があります。ですから、過去大きな地震で耐えた建物に倣えばOKだろう、という方法論です。

 

構造設計の本質は数字や科学じゃない。『歴史』を知ること。

以上のように、構造設計の本質は数字や科学ではありません。『歴史』です。歴史的にみて地震に耐えたので、この構造でOK、ということです。もちろん、簡単な物理を使って、応力計算や変位計算を行いますが、最終的に部材の断面を決定するのは、人間の感覚です。

悪く言えば、数字は後付でも良いかもしれません。『良い建物を構造設計した歴史、良い建物を調べた歴史』が、構造設計をする上で重要かもしれませんね。

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