構造設計の話

最終更新日: 2017.09.23

人は何キロの衝撃で死に至るのか?地震と圧死の関係について

地震で、頭上に物が落下すれば生命の危機です。地震による死亡被害で、溺死・焼死に次いで圧死が多いですから、地震というのは皮肉なものです。普段は、自分達が快適に暮らすための屋根や壁が、地震で壊れたとき、人を殺す凶器となるのですから。

構造設計者は地震が起きても人が死なないように、建物の倒壊を防ぐわけですが、これは『圧死を防ぐ』という意味だと解釈できます。一方、圧死に対する知識は、おそらく構造設計者は持っていないでしょう。一体どのくらいの衝撃力で人は死ぬのか、必要な知識のように思います。

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顔面が骨折するレベルの力とは?

医学系の参考文献の記述をみると、前頭骨が骨折するときの力は概ね600kgでした。構造力学的に書くと、6kNです。頭蓋骨が骨折すると、死に直結しそうなので、6kNを限界値と考えましょう。

構造力学で扱う外力のレベルを考えると、人はあっさり死にそうです。普段私たちが相手にしている荷重のレベルって1桁、2桁違いますもんね。

また、落下物は位置エネルギーをもっているので、軽くても衝撃力は大きくなります。衝撃力というのは物体の重量に加速度が働いたエネルギーと解釈します。また、地震は横揺れだけでなく、縦揺れもありますので、鉛直方向は1Gが作用するかもしれません。

落下物は人の頭上よりも数メートル上にあるので、位置エネルギーを持っています。位置エネルギーWは、

W=m×g×h

です。mは質量、gは重力加速度、hは頭上から落下物までの距離と考えます。建物の天井高は3.0mくらいですから、成人の身長を1.5mと仮定すると、h=3.0-1.5=1.5ですね。重力加速度を10と考えると、

W=600×10×1.5=9000(J) です。つまり、9000ジュールの位置エネルギーによって人の前頭骨は骨折するのです。

 

地震による縦揺れを考慮した位置エネルギー

さて、地震は縦にも揺れるので、構造設計では2m以上の片持ち梁は1Gを考慮して設計します。鉛直震度1Gとは、重量が2倍になる、に等しいことだと理解してください。

先に述べたように、9000ジュールのエネルギーで人は死にます。しかし、それは物体が静止した状態から落下した場合。地震では加速すると考えましょう。これを1Gと仮定します。W×2倍=18000ですから、これを9000Jが作用するときの落下物の重量としては、

9000/18000×9000=m×10×1.5 ⇒ m=300kg

です。つまり、地震で300kgの重量物が1.5mから落下した場合、最悪死に至るのです。300kgというと、大型バイクくらいの重さです。さすがに大型バイクを天井から吊っていることはありませんが・・・。天井材の仕上げ重量は大抵、200kg/㎡はありますよね。照明込みで300kg/㎡くらいですか。

天井が1㎡のまとまりで落下されると・・・痛いじゃ済まされそうにありません。

 

天井高がもっと高い場合はどうなる?体育館や劇場の場合。

マンションや学校は天井高が3.0mですが、体育館(天井が無い場合が多いですが)、劇場は天井高さがもっと高いですよね。5m前後あると想定しましょう。つまり、位置エネルギーは、

W=600×10×3.5=21000(J)です。地震時の縦揺れで2倍の衝撃力になると考えれば、21000×2=42000Jです。これについて、9000Jのエネルギーが作用する落下物の重量mを逆算すると、

9000/42000×9000=m×10×3.5 ⇒ m=55kg

です。なんと、3.5mから重量物が落下した場合、その質量は僅か55kgあれば人は死に至るのです。これは、先ほど説明した天井の仕上げ重量200kg/㎡より遥かに軽いですね。

 

天井が高いほど位置エネルギーが大きくなり、軽い物でも凶器に。

以上のように、天井が高いほど位置エネルギーが大きくなります。位置エネルギーが大きくなれば、軽い物でも凶器になります。また、地震によってエネルギーは倍になることも考える必要があります。

特に、劇場や大型マーケット、体育館などは天井高が4~6mあります。照明1つが凶器になるのです。

 

人は簡単に死ぬ。頭を守る行動と準備をしよう。

今回、6kNという小さな荷重で人が死ぬという事実がわかりました(正確には骨折だけど)。600kgと書くと、結構重く感じるのですが、6kNと書くとかなり少なく感じます。それだけ構造設計で扱っている数字が巨大だということを、改めて認識したいですね。大変な物を設計しているんだと。

ただ、正直言って天井や天井に取り付ける設置物の設計は、構造設計の範疇を超えていると思います。一方、これを意匠設計者に安全性を確認しろ、というのも酷です。そこで、ソフトの出番だと思います。素早く逃げる防災意識や、頭を守る防災グッズ(ヘルメットか)など、身の安全を守る道具は身近に用意しておきたいですね。

とにかく、生き残るためには頭を守ることです。頭を守るためには、机でも何でも良いので頭を隠してください。

参考文献 人体の衝突傷害耐性 -顔面-

 

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