構造設計に関すること

人は何キロの衝撃で死に至るのか?地震と圧死の関係について

地震で、頭上に物が落下すれば生命の危機です。地震による死亡被害で、溺死・焼死に次いで圧死が多いですから、地震というのは皮肉なものです。普段は、自分達が快適に暮らすための屋根や壁が、地震で壊れたとき、人を殺す凶器となるのですから。

構造設計者は地震が起きても人が死なないように、建物の倒壊を防ぐわけですが、これは『圧死を防ぐ』という意味だと解釈できます。一方、圧死に対する知識は、おそらく構造設計者は持っていないでしょう。一体どのくらいの衝撃力で人は死ぬのか、必要な知識のように思います。

スポンサーリンク

 

顔面が骨折するレベルの力とは?

医学系の参考文献の記述をみると、前頭骨が骨折するときの力は概ね600kgでした。構造力学的に書くと、6kNです。頭蓋骨が骨折すると、死に直結しそうなので、6kNを限界値と考えましょう。

構造力学で扱う外力のレベルを考えると、人はあっさり死にそうです。普段私たちが相手にしている荷重のレベルって1桁、2桁違いますもんね。

また、落下物は位置エネルギーをもっているので、軽くても衝撃力は大きくなります。衝撃力というのは物体の重量に加速度が働いたエネルギーと解釈します。また、地震は横揺れだけでなく、縦揺れもありますので、鉛直方向は1Gが作用するかもしれません。

落下物は人の頭上よりも数メートル上にあるので、位置エネルギーを持っています。位置エネルギーWは、

W=m×g×h

です。mは質量、gは重力加速度、hは頭上から落下物までの距離と考えます。建物の天井高は3.0mくらいですから、成人の身長を1.5mと仮定すると、h=3.0-1.5=1.5ですね。重力加速度を10と考えると、

W=600×10×1.5=9000(J) です。つまり、9000ジュールの位置エネルギーによって人の前頭骨は骨折するのです。

 

地震による縦揺れを考慮した位置エネルギー

さて、地震は縦にも揺れるので、構造設計では2m以上の片持ち梁は1Gを考慮して設計します。鉛直震度1Gとは、重量が2倍になる、に等しいことだと理解してください。

先に述べたように、9000ジュールのエネルギーで人は死にます。しかし、それは物体が静止した状態から落下した場合。地震では加速すると考えましょう。これを1Gと仮定します。W×2倍=18000ですから、これを9000Jが作用するときの落下物の重量としては、

9000/18000×9000=m×10×1.5 ⇒ m=300kg

です。つまり、地震で300kgの重量物が1.5mから落下した場合、最悪死に至るのです。300kgというと、大型バイクくらいの重さです。さすがに大型バイクを天井から吊っていることはありませんが・・・。天井材の仕上げ重量は大抵、200kg/㎡はありますよね。照明込みで300kg/㎡くらいですか。

天井が1㎡のまとまりで落下されると・・・痛いじゃ済まされそうにありません。

 

天井高がもっと高い場合はどうなる?体育館や劇場の場合。

マンションや学校は天井高が3.0mですが、体育館(天井が無い場合が多いですが)、劇場は天井高さがもっと高いですよね。5m前後あると想定しましょう。つまり、位置エネルギーは、

W=600×10×3.5=21000(J)です。地震時の縦揺れで2倍の衝撃力になると考えれば、21000×2=42000Jです。これについて、9000Jのエネルギーが作用する落下物の重量mを逆算すると、

9000/42000×9000=m×10×3.5 ⇒ m=55kg

です。なんと、3.5mから重量物が落下した場合、その質量は僅か55kgあれば人は死に至るのです。これは、先ほど説明した天井の仕上げ重量200kg/㎡より遥かに軽いですね。

 

天井が高いほど位置エネルギーが大きくなり、軽い物でも凶器に。

以上のように、天井が高いほど位置エネルギーが大きくなります。位置エネルギーが大きくなれば、軽い物でも凶器になります。また、地震によってエネルギーは倍になることも考える必要があります。

特に、劇場や大型マーケット、体育館などは天井高が4~6mあります。照明1つが凶器になるのです。

 

人は簡単に死ぬ。頭を守る行動と準備をしよう。

今回、6kNという小さな荷重で人が死ぬという事実がわかりました(正確には骨折だけど)。600kgと書くと、結構重く感じるのですが、6kNと書くとかなり少なく感じます。それだけ構造設計で扱っている数字が巨大だということを、改めて認識したいですね。大変な物を設計しているんだと。

ただ、正直言って天井や天井に取り付ける設置物の設計は、構造設計の範疇を超えていると思います。一方、これを意匠設計者に安全性を確認しろ、というのも酷です。そこで、ソフトの出番だと思います。素早く逃げる防災意識や、頭を守る防災グッズ(ヘルメットか)など、身の安全を守る道具は身近に用意しておきたいですね。

とにかく、生き残るためには頭を守ることです。頭を守るためには、机でも何でも良いので頭を隠してください。

参考文献 人体の衝突傷害耐性 -顔面-

スポンサーリンク
 

こちらも人気の記事です

ピックアップ記事

  1. youtuberが凄い理由と、建築家がクソな理由
  2. マンションの鋼製手すりは触れるな危険、という話。
  3. ソファやベンチに座るとき、一番安定する位置はどこか。
  4. 建築家の事務所へインターンに行き、何を学び何をしたのか書く。
  5. クレーンの衝撃力を設定する基礎項目について

関連記事

  1. 建設業界に関するニュースのこと

    豊洲新市場の件は、『技術論』や『正しい・間違い』の問題じゃない。

    連日、豊洲新市場の件が報道されていますが・・・マスコミも飽きませんねぇ…

  2. 構造設計に関すること

    皆はどうしてる? 横補鋼材のお話。

    保有耐力横補鋼を満足していますか。確認申請や適合性判定で嫌とい…

  3. 構造設計に関すること

    Autocadで変断面の断面係数を求める方法

    ども、tyazukeです。変断面の断面係数を求めるとき、どう計…

  4. 建築のこと

    ALC版の許容スパンは、同じ荷重でも各メーカーで違う件

    ども、tyazukeです。屋根や床にALC版を使うことがあります。荷重…

  5. 構造設計に関すること

    カラトラバの美しい建築をみよう。

    フランクゲーリーが『98%の建築はクソだ。』と言ったので糞じゃない建築…

  6. 構造設計に関すること

    基礎の接地圧e/Lはどこまで許容できる?

    ども、tyazukeです。基礎の接地圧を計算するとき、e/Lを…

スポンサーリンク

最近の記事

Tazukeのおすすめ書籍

  1. 構造設計に関すること

    構造目線で考えよう。3本の矢を折るために必要な力とは。
  2. 一級建築の試験勉強

    【一級建築士】独学2ヶ月で法規勉強したけど、21点とれた。
  3. 構造設計に関すること

    剛域とは?その意味と設定方法について説明します。
  4. 労働

    業界人が考えた、有名な建築家になるために必要なこと6つ。
  5. 一級建築の試験勉強

    総合資格学院の講師は、どうすればなれる?
PAGE TOP