編集部
窒息性ガスの作用機序がこんがらがりますよね。一酸化炭素はヘモグロビンに結合、シアン化水素は細胞の呼吸酵素を止める。どこで酸素利用を邪魔するかで区別すると整理できます。
この記事の要点
一酸化炭素はヘモグロビンと強く結合して酸素の運搬を阻害、シアン化水素は細胞内の呼吸酵素を阻害して酸素の利用を妨げます。フッ化水素は腐食性と低カルシウム血症、塩化ビニルはレイノー現象・肝血管肉腫を起こします。
水溶性の高いガスは上気道で吸収され、水溶性の低いガス(二酸化窒素・ホスゲンなど)は肺の深部に達し肺水腫を起こします。
有害なガスや化学物質は、物質ごとに作用する場所や症状が決まっています。労働衛生一般の問6で毎回、物質と健康障害の組合せが問われます。
作用機序や標的の取り違えが引っかけの中心です。
一酸化炭素はヘモグロビンと結合、シアン化水素は細胞の呼吸酵素を阻害。水溶性の低いガスは肺の深部に達し肺水腫を起こします。
| 物質 | 作用・症状 |
|---|---|
| 一酸化炭素(CO) | 酸素より強くヘモグロビンと結合し、組織への酸素の運搬を阻害。後遺症で健忘・パーキンソン症状 |
| シアン化水素(HCN) | 細胞内の呼吸酵素を阻害し、酸素の利用を妨げる。呼吸困難・呼吸麻痺 |
| 硫化水素 | 高濃度で呼吸中枢の麻痺。酸欠・硫化水素を参照 |
一酸化炭素は「運搬(ヘモグロビン)」、シアン化水素は「利用(細胞の呼吸酵素)」を妨げる、と区別します。
ガスの水への溶けやすさで、障害が出る場所が変わります。
主な物質の特徴は次のとおりです。
| 物質 | 特徴 |
|---|---|
| 二酸化窒素(NO₂) | 赤褐色の気体。水溶性が低く肺深部に達し肺水腫。慢性で慢性気管支炎・歯牙酸蝕症 |
| 二酸化硫黄(SO₂) | 水溶性が高く上気道刺激。急性で咳・眼痛・呼吸困難、慢性で慢性気管支炎・歯牙酸蝕症 |
| ホスゲン | 肺で加水分解されて塩酸を生じ、肺水腫 |
| 塩素 | 黄緑色・刺激臭。高濃度で肺水腫 |
| フッ化水素 | 強い腐食性。深部組織の障害、低カルシウム血症。慢性で骨硬化・斑状歯 |
混同しやすいところ
一酸化炭素 と シアン化水素
一酸化炭素はヘモグロビンと結合して酸素の「運搬」を妨げ、シアン化水素は細胞内の呼吸酵素を阻害して酸素の「利用」を妨げます。
水溶性の高いガス と 低いガス
水溶性の高いガスは上気道で吸収。水溶性の低いガス(二酸化窒素・ホスゲン)が肺の深部に達して肺水腫を起こします。
フッ化水素 と シアン化水素
フッ化水素は腐食性・低カルシウム血症。細胞内呼吸酵素を阻害するのはシアン化水素です。
化学物質による健康障害は、労働衛生一般の問6で6回連続(令和5年8月〜令和8年2月の全6回)出題されています。作用機序や標的の取り違えが中心です。
| 年度 | 問 | 問われ方・引っかけ |
|---|---|---|
| 令和8年2月 | 問6 | TDIが「メトヘモグロビンをつくりチアノーゼ・貧血」とした選択肢が誤り(TDIは気道感作)。 |
| 令和7年8月 | 問6 | アクリロニトリルで「レイノー現象」がみられるとした選択肢が誤り。 |
| 令和7年2月 | 問6 | 「フッ化水素酸は弱酸で皮膚・粘膜に重篤な障害を生じない」とした選択肢が誤り(腐食性・低カルシウム血症)。 |
| 令和6年8月 | 問6 | 「水溶性の高いガスは肺胞まで到達しやすい」とした選択肢が誤り(高いガスは上気道で吸収)。 |
| 令和6年2月・令和5年8月 | 問6 | 「フッ化水素は呼吸酵素障害による呼吸麻痺」「二酸化硫黄の慢性中毒で黄色環・低分子蛋白尿」とした選択肢が誤り。 |
引っかけは次の型に整理できます。
一酸化炭素はヘモグロビン結合、シアン化水素は呼吸酵素阻害、フッ化水素は腐食・低カルシウム。水溶性の低いガスが肺の深部に達し肺水腫を起こします。
問題:水への溶解度が高いガスや蒸気は、吸入すると肺胞まで到達しやすい。
〇か×か。
答え:×
水溶性の高いガスは上気道で吸収されやすく、肺胞まで到達しにくいです。水溶性の低いガス(二酸化窒素・ホスゲンなど)が肺の深部に達して肺水腫を起こします(令和6年8月 労働衛生一般 問6の論点)。
問題:フッ化水素酸は弱酸であるため、皮膚や粘膜に接触しても重篤な障害を生じることはない。
〇か×か。
答え:×
フッ化水素酸は弱酸ですが、深部組織を侵し、重篤な障害や低カルシウム血症を起こします(令和7年2月 労働衛生一般 問6の論点)。
問題:シアン化水素は、細胞内の呼吸酵素と結合して酸素の利用を阻害し、呼吸困難や呼吸麻痺を起こす。
〇か×か。
答え:〇
シアン化水素は細胞内の呼吸酵素を阻害し、酸素の利用を妨げます。酸素の「運搬」を妨げる一酸化炭素とは作用機序が異なります(令和7年2月 労働衛生一般 問6の論点)。
一酸化炭素はヘモグロビンと結合して酸素の運搬を、シアン化水素は細胞内の呼吸酵素を阻害して酸素の利用を妨げます。
水溶性の高いガスは上気道で、水溶性の低いガス(二酸化窒素・ホスゲン)は肺の深部で障害を起こします。
フッ化水素は腐食性・低カルシウム血症、塩化ビニルは肝血管肉腫が特徴です。
問6で毎年問われる引っかけは、作用機序の入れ替え、水溶性と到達部位、フッ化水素酸の「弱酸だから安全」、物質と症状の取り違えです。
参考資料
※ 最終更新:2026年6月
フッ化水素酸は「弱酸だから安全」ではない
フッ化水素酸は弱酸ですが、皮膚や粘膜に接触すると深部組織まで侵し、重篤な障害や低カルシウム血症を起こします。「弱酸だから皮膚・粘膜に重篤な障害を生じない」とするのは誤りです。なお、細胞内の呼吸酵素を阻害して呼吸麻痺を起こすのはシアン化水素で、フッ化水素ではありません。