本の紹介

【書評】図解・超高層ビルのしくみ、を読んで

構造設計にかかわるものとして超高層は夢だ。僕も世間知らずの学徒のころ、「大きい建築物」や「複雑な建築」を設計したい、と考えた。もちろん僕に関わらず、構造計画の形態が如実に表れる超高層ビル、そしてドーム。この両者は、構造系学徒にもっぱら人気の建築物である。

一方で需要がそんなに大きな建築じゃあないから、必然的に設計できる事務所は限られる。準大手とか大手レベルのゼネコン、設計事務所が多い。超高層なら日建設計が有名だろう。

僕の構造屋としての寿命は短かったが(あと数年で建築業界から去る予定)、せめて超高層ビルの基礎知識くらいは頭に入れておこうじゃないか。

ま、そんな動機で本書を手にとった。著書は鹿島建設。スカイツリーの施工を担当した大林組でないところが皮肉だ(スカイツリー竣工前に発売された著作)。

 

資本主義の権化、高さを競う超高層ビル

超高層ビルとは、「高さへの挑戦」―カッコよくいえばそうなる。その昔、日本では100尺以上の建築物は設計できなかった。100尺=31mである。日本では霞が関ビルが最初の超高層ビルだとう。構造設計者は武藤清。31mを遥かに超えた147m。

当時、武藤は超高層ビルの設計に慎重になっていて、柱割をかなり細かくしたそうだ。霞が関ビルの外観をみると細かく規則的な柱梁のラインがよくわかる。チューブ構造のように外殻をしっかり固めている。

 

一気に現代の話に戻そう。現在、最も高いビルはドバイにあるブルジュ・ハリファ。1kmまで届かないが、828m。現地に行くと目を疑う光景がまっているだろう。何せ、634mのスカイツリーを足元から見上げたときは、あまりの巨大さに言葉を失った。

空撮写真でみるとスカイツリーを支えるチューブがスレンダーに見える。1つの部材と、建物高さ634mとのアスペクト比が小さいからだ。しかし、人間のスケール感から見れば、その細いと思ったチューブさえ、あまりに大きい。超高層ビルの途方もないスケールに驚いた。

 

では、人はなぜ高さを求めるのか。高さの挑戦を辞めないのだろう。かつて日本では人口の急増にともなって、高層ビルを求める世論が一気に高まったと聞く。元々、国土が狭い日本が、その土地を有効活用するには、容積で稼ぐしかない。つまり「高さ」というわけだ。

一方、諸外国を見渡せばそうでもない。例えば、アメリカやドバイ、東南アジアなど新興国。人口に対する国土があるのに、わざわざ超高層ビルを建設する。費用もかかるし工事も大変。

なぜ超高層を求めるのか。

 

答えは「資本の誇示」だと思う。ドバイは世界有数の産油国で(最近ではシェール油田を発掘したアメリカが1位になることもある)、それによって外貨を稼ぐ。地面を掘れば金塊にぶち当たるわけで、その姿は「成金そのもの」にみえる。

僕が思うに、成金の彼らは劣等感を抱いている。彼らが大金持ちになれたのは、努力したからじゃなく土地に恵まれたからだ(冗談だよ)。

だから、あそこらの人々は「自分たちは、ただの成金でない」ことを示そうとする(何度も言うが冗談だ)。他の先進国と同等、いや優れていることを誇示したいのだ。

 

競争嫌いの僕にとって、何かを誇示したい願望はよく理解ができない。自分は自分だし、自分を大きく見せようとしたって、何かになれるわけでもないのに。それはいいとして。とにかく世界中で、超高層ビルの高さを競う現象は起きている。

最近では1kmを超える超高層ビルの建設も始まっているらしい。庶民から言わせれば、「無駄なことを・・・」と言いたくなる。昔から、馬鹿とネコは高い所が好きというが、前者の言葉をぶつけてやりたい気分だ。

 

揚重クレーンとポンプ車の凄さ

とはいっても、1km近いビルを施工するために技術は凄まじく進歩した。とりわけ驚いたのは、揚重クレーンとコンクリートポンプ車。揚重クレーンとは、資材を荷揚げするクレーンで、その辺の工事でも見かけることがあると思う。

ビル物を設計する際の必須アイテムである。だが、超高層ビルの揚重クレーンは規模が違う。超高層ビルの建設を可能にしたのは、揚重クレーンの性能がアップしたことがキッカケと良いってもいい。

揚重クレーンの能力は「tm」で表す。これは、クレーンの稼働半径に対して、先端に吊る資材重量を掛けたものだ。昔は200tm程度の揚重クレーンが、最近では1200tm、1500tmのクレーンがある。より高く、広範囲にわたって資材を運搬できる、ということだ。

それでも地上にクレーンを据えて、最上階まで資材をおくることはできない。そのため、クレーン自体が上へと登る。

 

1つの方法が、ポストクライミング工法だ。ポストクライミング工法は、クレーンを支えるポストが伸びることで必要な高さへ資材を運搬できる方法のこと。クレーン自体が上っている、というよりはポストが伸びている。

2つめがフロアクライミング工法。これは、階毎にクレーン自体が登り資材を運搬する方法。この方法は、階にクレーンを支える土台が必要になるため、RC造には不向きとされる。RCでは強度発現まで時間がかかるからだ。

 

ポンプ車の能力も恐ろしい。ブルジュ・ハリファでは600m先へ「地上から生コンを一気に圧送した」という。ポンプ車の能力が高まったからといって、こんなケースは稀だ。超高層ビルで場所打ちコンクリートは望ましくない。

だからPCaを使う。PCaであれば、ある程度成形された床や壁をクレーンで運び、組み立てるだけで済む。工期短縮にもつながる。

このように超高層ビルの高さは紛れもなく「施工の力」が支えている、と感じた。

 

盛りだくさんの内容

と、まぁ盛りだくさんの内容だった。他にも伝えきれない超高層ビルのしくみが沢山である。見た目はポケットサイズの本で読みやすそう・・・だが、本書を甘く見ないほうが良い。

企業が書いた本だけに、内容はお堅い。僕は分かりづらい、とは感じなかったが素人が読んでも「?」だろう。ただ内容は充実しているので、気合を入れて読んで頂ければ素人でも、読了は可能である。その時は、建築の専門書を横に置いて読んでいただきたい。

建築学生や、意匠設計者、構造設計者の若手にいいかもしれない。

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