建設業界のこと

「哲学」から読み解く建築に関する諸問題(建物の沈下等)

久々にマイケルサンデル教授のジャスティスを読みました。学生時代に購入した本ですが、今読んでも新しく「哲学」について初心者でも読むことができるし、深く思考することができる良書です。

文庫本なのに内容が濃くて、とても一日で読み切れる文量でもなくて、速読するよりも遅読してじっくり理解する方がよさそうです。

僕は「哲学」が好きで、高校生の頃、図書館へ行き、「墨子」とか「孟子」、「孔子」を読み漁っていた時期がありました(授業の点数はものすごく落ちましたが)。

結局、それが何の役にたったのか、と言われると何もないのですが、社会問題や事象を深く思考するクセが付いたものと思います。考え過ぎるクセも引っ付いて社会人としては・・・な状況ですけどね。

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災害に付け込んで物資を高く売る商売の善悪

さて、この本の良い点は、哲学の難問を身近な話題に置き換えて(全部が実話ですが)説明していること。

例えば、アメリカを襲ったハリケーンチャーリーの話(アメリカはハリケーン被害で死者が出るほど強烈)。

チャーリーが去った後、家はひどい被害にあっていました。巨大なハリケーンも問題ですが、もっと複雑な問題が発生したのはこの後でした。

チャーリーが通り過ぎた地区は、物資が全く足りない状況で、綺麗な水さえまともにありません。そこに付け込んで、いつもは2ドルで売れていた氷が10ドルで売られていたのです。

また、ある男性は、家に飛んできた木々をチェンソーで取り払うために2万3千ドルも請求されたのです。

さて、あなたはどう感じたでしょうか?災害に便乗して儲けようとする人々。彼らの行いは善か悪か?

もちろん両方の意見があります。善だ、と答える人々は「市場は自由だ」というのです。つまり、売り手が少なく買い手が多い状況では売値が高くなるのは当然で、当たり前のことだ、と。

逆に悪だと感じる人の意見ですが、これは道徳的に間違っているということ。また、緊急を要する事態では、市場は自由も何も無い。市場が制限されている状態は、買い手は足枷をつけられているのです。

では、僕たちが間違っていると感じる「道徳的」とは何なのか?これを理解するための線引きが正義を知ることなのですね。

 

災害大国日本の場合

アメリカのハリケーンのように、日本でも地震災害が何度も起きています。例えば記憶に新しい東日本大震災。このとき、災害に付け込んで物資を高値で売った日本人がいたのか?僕が知る限り、いません。

むしろ助け合いや、コンビニの物資を提供する姿が目立ちました。また、自衛隊や警察、消防が直ちに派遣され日本の緊急時には結束したのです。「困ったときはお互い様」。日本人の精神です。

では、なぜ日本では、弱みに付け込んで利益を増やす人がいなかったのでしょうか?

 

国ごとに道徳の概念は違うのか?

両者の全く違う国民性をどう考えるべきでしょうか?「正義」の概念は国ごとに違っているのか?一体何がそうさせるのか?

アメリカの場合、頑張った分だけ沢山のお金が手に入る「アメリカンドリーム」が要因かもしれません。「儲けて何が悪い!」ということかも。

一方、日本は、和を大切にする精神。自分だけ良ければ良い、ではなくて、皆同じように出来るだけ差がないように。「出る杭は打たれる」。これも日本独特の文化です。

これは、日本が災害の多い地域だから、助け合いが当たり前だったのでしょうか。

また地学的な状況も関係していそうです。日本は周りが海に囲まれて、どこまで行っても逃げおおせることはできません。この状況では、喧嘩をひっかけて逃亡するよりも和を尊んで仲良くすべきですからね。

道徳心は、人として生きる根幹をなすものです。災害が起きた時、人間の根幹(道徳的な芯の部分)が試されます。他国をみると、「あぁ根本的に民族が違うのだ」と思わざるを得ません。

ただ、日本人同士でも、馬が合わない人がいるように。それは当然のことなのです。

 

建物の沈下は誰の責任だろうか?

あるビルの工事で、あなたは傍観者として現場を眺めています。現場は始まったばかりで今は杭工事を行っています。但し工期は短く現場はかなり焦っています。

杭の施工をする途中、ある杭の施工が上手くいかず支持層を僅かに到達しませんでした。その差、僅かに数十センチ。丁度、杭施工を管理する人間がおらず、黙っていればこのまま見逃されます。また、報告書にも問題ないと書けば素通りです。

このとき、担当者はどんな決断を下すのでしょう?「数十センチだから問題ない」と思うのか、「数十センチくらい頑張って施工しよう」と思うでしょうか?

これは、実際に起きたマンションの沈下問題に関係します。

現実は、杭が支持層に到達しておらず、不同沈下を起こしたのです。結局マンションは建て替えとなりました。

担当者は、「このままの長さで問題ない」と判断しました。いや、もしくはダメと分かっていても、そのまま見過ごしたか。

それは定かではありませんが、この2つの選択を迫られたとき人は何を考えるのか?何を基準として行動に移すのか?自分にとって何が正義なのか?という線引きが、「倫理観」なのです。

そう考えると、自分にとって何が正義なのか?という規準は曖昧ですし、これまで様々な哲学者が異なる意見を述べている点からも「人それぞれ」だと言えます。

では、建物の沈下に直結する仕事を担当者「それぞれ」の裁量に本当に任せて良いのか?という問題に発展します。

また、杭の施工に関する機械がブラックボックスで、専門家や担当者にしか分からないとしたらどうでしょう?それを正しいか否か判断するのは誰でしょう?現場管理の人間でしょうか?それとも監理?構造設計の担当者でしょうか?

彼らに杭が支持層に到達したかどうかの専門的知識はあるのでしょうか?時間的余裕は?最悪、彼ら全員がグルになってウソを通しおおせたらどうなるのでしょう?

考えれば考えるほど無下には出来ない問題です。

つまり、そこに人の判断が介入するだけ野暮なことになってしまいます。杭が支持層に到達したか否かは人間の曖昧な判断に任すべきではありません。OKかNGか、その2通りだけで良いのではないでしょうか?

つまり、支持層に到達したらロボットが判定を伝えるシステムは?合否を判定するだけのロボットに正義も悪もありません。だからと言って、それを信じきってしまうのは危険ですが。

とはいえ、最近の性悪説に基づいた処置をみると、最終的な方向は「人間に任せることはできない」という決断になるかもしれません。

今回は「哲学」から建築に関する諸問題の翻訳を試みました。中々、新鮮な思考を凝らすことができて楽しかったです。

それでは。

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