構造設計に関すること

設計ミスをした先輩。会社と社長は守ってくれなかった。

僕の先輩の悲しい話。先輩はそれはもう働き者です。僕が勤めている事務所には、僕と4人構造設計者がいて、先輩が一番仕事を持っています。

先輩の年齢は40代・独身男性で、ありがちな仕事人間。頭が禿げ上がってますが気力に満ち溢れた顔つき。良く言えばメガネをかけたジュード・ロウに似ています。

仮に先輩をロウさんとしておきましょう。

 

ロウさんは、僕みたいな自堕落人間から見ても『この人すごいなあ』と素直に思える人物で、上司と部下の両方に信頼が厚い人でした。

ロウさんは物件を何件も抱えていては、毎日22時くらいまで仕事をしていたと思います。僕が珍しく土曜日に出勤したときもロウさんは普通に仕事していました。

僕  ちわーす。お疲れ様です。

ロウさん おっ、珍しいね。

僕  いや~立て込んでまして。金曜日徹夜するのが嫌だったんで今日来ました。先輩も忙しいですか?

ロウさん まあ、僕はいつも通りだけどね。別に忙しくはないよ。

僕  へ~・・・(忙しくないなら土曜日来なくても)

まあ、そんな世間話をしていました。後で知ったことですがロウさんは、ほぼ毎週土曜日に出勤していたようです。

 

ある日のことです、珍しく先輩が休んでいました。体調不良のようです。しかし、次の日も次の日も次の日も来ない。連絡しても音信不通。

ロウさんは独り身なので他の人から連絡の取りようもない。先輩の体も心配ですが、会社としては多くの案件を抱えていた先輩の仕事の進捗状況が気になります。

 

ロウさんがいない間、僕と部長がヘルプに入りました。先輩のPCから恐る恐る溜まっているメールを潰してきます。正直、他人の仕事なんて知りたくありません。

人間の第六感なのか、何か嫌な予感がしていたからです。案の定メールの1つに、計算ミスが指摘されたメールがほったらかしになっていました。

 

なぜミスが発覚したのかというと、監査です。監査では、計算書と当時の図面をチェックして不整合が発覚したらしいです。先輩が担当した物件では、梁の主筋が内端と外端で計算書と図面が食い違っていました。

図面通りに計算してOKなら何事もないのですが、再計算するとどうしてもNG。しかも鉄筋が全く足りないことが判明しました(たしか、3本くらい足りない)。工事中なら鉄筋を増やす対処もできますが、既に竣工した物件です。

 

計算でOKを確認するか、『取り壊す』という選択肢しかありません。もちろん取り壊すと、工事費用を事務所で負担することになるでしょう(もちろん保険はおりると思いますが)。

メールが届いた日付を見ると、先輩が休んだ丁度1日前でした。ああ、先輩は限界だったのかなあ・・・

 

結局このミスは部長が対応することになりました。もちろん取り壊しという事態は避けたいので、計算的にOKになる手段を探していたようです。

しかし・・・、結果は『取り壊し&建て直し』。幸いだったのは、マンションのような居住者がいる物件ではなかったことでした。

この問題がひと段落した後、休んでいた先輩は鬱病と診断されたそうで、数か月の休職を余儀なくされました。ほどなくして復職されましたが、それ以来先輩には多くの仕事を回されなくなりました。

 

ただ、それから1年経っても先輩には仕事が回らなくなっていきました。社長の指示で仕事を回さず辞めさせる計画だったみたいです。

先輩は仕事人間だった人です。仕事にやりがいや楽しみも感じていたのでしょう。会社から信頼を失ったと感じた先輩は辞職願を提出し、仕事を辞められました。

 

出社最終日、先輩のお別れ会があったのですが、昔のような気力ある顔付きから一転し、60代くらいのやつれた表情をしていました。

先輩は、しきりに社長の不満やうちの会社は社員を守らない、こんな事務所早くやめろ、構造設計の道を選んで失敗だった、二度とやらない、そうおっしゃっていました。

 

構造設計者のミスというのは、はっきり言って意匠・設備とは比較にならないダメージがあります。

意匠や設備のミスは後からでも対応可能ですが、構造は鉄筋1本違うだけでも取り返しがつきません。大事なことなので2度いいます。

構造のミスは取り返しがつきません。

 

僕は、先輩のように精神的にギリギリで仕事をしていた人に鉄筋の本数ミス1つあっても、『しょうがない』と思います。

これは、先輩自身の過失が1だとしたら、仕事の振り方を間違えた上司が5で、そんな体制にした社長に4くらいの問題があると思います。ともかく、これが設計事務所の実態で所員は日々精神をすり減らしながら図面や数字と格闘しています。

 

僕は先輩がおっしゃっていた、『構造設計の道を選んで失敗だった』

という言葉が頭から離れません。最近、『構造家』というオジサンがスター化してます。

佐○木睦○という70歳を超える爺が学生の憧れの的というのが信じられませんが、彼らが設計する素晴らしい建築の一面だけを切り取って、彼らの手足になっているお弟子さんの業務時間・低賃金の側面が伝えられていません。

 

構造設計と言う職業は、低賃金・長時間労働+逮捕の可能性+自分のミス1つで会社が潰れる、という地獄の4点セットです。普通こんな仕事は大半が『高賃金』と相場が決まっているのですが、一向に賃金はよくなりません。

これから団塊の世代が一気に抜けて良くなると言う人もいますが、僕はそうは思いません。構造設計者が少なく経済がよかったバブルの時でさえ、構造設計者の地位は低かったのですから。

あと、構造一級建築士なんて全く意味がありません。むしろ、構造を目指す若者をより減らしていると思います。重要なのは、

賃金上げろ!

コレだけだと思います。

 

話を元に戻すと、先輩は構造設計を完全に辞めたそうです。この業界に未来はない、とキッパリ言っていました。運よく実家のお家でやっている農業を継いだみたいです。結婚もできたようで、今とは全く違う幸せな人生を歩んでいます。

僕が言いたいのは、『構造設計なんてやるもんじゃない』ということ。今後、団塊の世代が抜けて一気に構造設計者が減ると思いますが、賃金は大幅に上がらないでしょう。お金の流れは上から下へ、おそらく仕事の発注者側が多くのマージンを頂いて終わりでしょうね。

 

この現状を変えるにはどうしたらよいでしょうか?このまま、構造設計者が減り続けて、日本の建築業界全体が痛い目に合うべきだと思います。

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